託送料金とは?仕組みやレベニューキャップ制度をわかりやすく解説
目次
託送料金とは?
託送料金とは電気を送るときに利用する「送配電線の使用料」のことです。
電気が利用者に届くまでには「電気をつくる」「電気を運ぶ」「電気を売る」という3つの部門があり、それぞれに以下の事業者が存在します。
- 電気をつくる:発電事業者
- 電気を運ぶ:送配電事業者
- 電気を売る:小売電気事業者
私たちは毎月、電気代を小売電気事業者(電力会社)に支払っていますが、電気料金の全てが小売電気事業者に入るわけではありません。
電気の使用量に応じて、発電事業者には発電費用が、送配電事業者には送配電線の使用料が支払われているのです。
なお、この送配電線の使用料が「託送料金」です。
下図にお金の流れをわかりやすくまとめました。

電気を使用する全ての需要家(法人・個人)には託送料金を支払う義務があります。
そのため、電気料金には「託送料金相当額」が必ず含まれています。
送配電事業者は日本に10社しか存在しない
国内の送配電事業者は以下の10社です。
経済産業大臣が認可した送配電事業者を一般送配電事業者といいます。
<日本の一般送配電事業者一覧>
- 北海道電力ネットワーク株式会社
- 東北電力ネットワーク株式会社
- 東京電力パワーグリッド株式会社
- 中部電力パワーグリッド株式会社
- 北陸電力送配電株式会社
- 関西電力送配電株式会社
- 中国電力ネットワーク株式会社
- 四国電力送配電株式会社
- 九州電力送配電株式会社
- 沖縄電力株式会社
日本では2000年から始まった電力自由化により、発電部門と電力小売部門は民間企業が新規参入できるようになりました。
ところが送配電事業については自由化が進んでいません。
その代わり、2020年に「発送電分離」が行われています。発送電分離とは、大手電力会社が送配電部門を別会社化することです。
電気を使うには送電線が不可欠ですが、大手電力会社が送配電部門を抱えていれば、電力自由化により新規参入した発電事業者や新電力からすれば公平性に欠けます。
そこで電力システム改革を通じて、送電線を公共財として使えるインフラとするため、発送電分離がおこなわれました。
託送料金は電気代の3~4割を占めている
下図は電気料金に占める費用の内訳になります。
(出典:資源エネルギー庁「料金設定の仕組みとは?」)
電気代に占める割合が最も大きいのは燃料費・電力購入費で、全体の5~6割になります。
次に大きいのは託送料金で、電気代のうち3~4割を占めています。実は託送料金が電気代に占める割合は非常に大きいのです。
2023年4月からレベニューキャップ制度が導入開始に
電気代に占める割合が大きい託送料金ですが、2023年4月より始まった「レベニューキャップ制度」により、託送料金は大幅な値上げをおこなっています。
この制度の概要を説明する前に、託送料金がなぜ値上がりするのか、その背景から解説していきます。
総括原価方式の問題点
託送料金は、国が戦前に決めた「総括原価方式」という方法を採用してきました。
総括原価方式とは、人件費や送電費用などの原価を見積もり、そこに一定の利益を上乗せして料金を決定する方法です。

一般送配電事業者は総括原価方式により安定して利益を確保できるというメリットがありますが、その一方で問題点もありました。
一定の利益は必ず確保できる構造のため、コスト削減や値下げといった企業努力の意欲が高まりにくくなるのです。
さらに、一般送配電事業者は下記のような課題を抱えていました。
- 再エネ電源の増加に対応するための送配電網の拡充
- 老朽化が進む送配電網の修繕・更新投資
- 自然災害発生時の対応力強化
- デジタル化をはじめとするインフラの高度化
国の後押しにより、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入は進んでいます。それらの発電設備でつくった電気を運ぶ際、送配電線を使用します。
しかし、送配電線などの設備には電気を流すことができる容量に限りがあり、地域によっては容量に空きがない場所もあります。カーボンニュートラルを2050年までに実現するには、容量を強化する工事が必要になります。
日本の送配電ネットワークの大部分は、高度経済成長期(1960~70年代)に整備されました。
多くの送配電設備で老朽化が進んでいるため、メンテナンスや計画的な更新投資が必要な状況です。
また、台風や地震などの自然災害によって、送配電ネットワーク設備の仕様統一や送配電事業者間の連携強化も欠かせません。さらにデジタル化への設備更新も急務となっています。
レベニューキャップ制度の導入による変化
しかしながら、これらを実施するには莫大な費用がかかります。
その費用を利益から捻出できれば良いのですが、東日本大震災をきっかけに節電や自家消費を行う需要家が増加したことで電力需要は伸び悩んでいます。
また人口減少の影響によってさらに右肩下がりになる予想のため、収入自体が増える可能性は低いです。

そのような状況もあり、一般送配電事業者は国に対して「利益分の値上げ」を要求しました。
しかし燃料費高騰により電気代が上がっているため、さらに国民負担が増えることは避けたい。
そこで国民負担を増やすのではなく、一般送配電事業者が効率的で計画的な送配電ネットワークを形成することができる「レベニューキャップ制度」が、2023年4月より導入されることとなったのです。
レベニューキャップ制度は、コストの効率化により「必要な投資資金の確保」と「国民負担の抑制」を実現する方法なのです。
レベニューキャップ制度では送配電事業者にコスト効率化が求められる
レベニューキャップ制度とは、送配電事業者にコストの効率化を促すことで、収入の中から利益を捻出させる取り組みのことです。
先述した通り、制度移行前は総括原価方式によって定額の利益が確保されていました。しかしレベニューキャップ制度では利益が確保されていません。
そのため送配電事業者は「経営に必要な費用(収入の上限)」を見積もり、その中から自主的に効率化を進めることで利益を設定できるようになったのです。

託送料金は以下の4つの流れで決定します。
- 一般送配電事業者が5年間の事業計画を作成する
- 計画実行に必要な費用(レベニューキャップ)を国に提出して審査を受ける
- 審査の結果、承認された場合は、その範囲内で託送料金を設定する
- 一般送配電事業者は事業計画を実行し、その達成状況を国が評価する
なお、上記②で事業計画の審査を担当するのは、電力・ガス取引監視等委員会に所属する専門家です。
事業計画は「再エネを導入の際、送配電設備をどのように強化するのか」「修繕を行う方法」など審査項目が細かく設定されています。各項目の達成状況に応じて、事業者は次期の予算上限のボーナスやペナルティが与えられます。
レベニューキャップ制度開始当初の託送料金は上がる
送配電網の拡充や修繕といった費用負担が大きいため、2023年4月以降は託送料金が値上がりしています。一般送配電事業者の高圧・特別高圧における託送料金の推移は以下となっています。
| 一般送配電事業者 | 高圧 | 特別高圧 |
| 北海道電力ネットワーク | 基本料金:+149.6円/kW 電力量料金:+0.14円/kWh |
基本料金:+71.5円/kW 電力量:−0.31円/kWh |
| 東北電力ネットワーク | 基本料金:+18.7円/kW 電力量料金:+0.06円/kWh |
基本料金:変動なし 電力量:−0.02円/kWh |
| 東京電力パワーグリッド | 基本料金:+98.37円/kW 電力量料金:+0.03円/kWh |
基本料金:+43.89円/kW 電力量:+0.03円/kWh |
| 中部電力パワーグリッド | 基本料金:変動なし 電力量料金:+0.21円/kWh |
基本料金:変動なし 電力量:+0.02円/kWh |
| 北陸電力送配電 | 基本料金:+154.0円/kW 電力量料金:+0.19円/kWh |
基本料金:+137.0円/kW 電力量:+0.11円/kWh |
| 関西電力送配電 | 基本料金:+146.3円/kW 電力量料金:+0.23円/kWh |
基本料金:+89.1円/kW 電力量料金:変動なし |
| 四国電力送配電 | 基本料金:+146.3円/kW 電力量料金:+0.23円/kWh |
基本料金:+89.1円/kW 電力量料金:変動なし |
| 九州電力送配電 | 基本料金:+96.78円/kW 電力量料金:+0.30円/kWh |
基本料金:+96.78円/kW 電力量料金:+0.30円/kWh |
※各電力会社の高圧標準接続送電サービスを参照
しかし、一般送配電事業者がコスト削減に成功すれば、将来的に託送料金が安くなっていく可能性はあります。
将来、託送料金は下がる可能性がある
レベニューキャップ制度の導入によって需要家が期待できる効果は、託送料金の将来的な負担の軽減が挙げられます。
これまでは一定の利益が確保される方式を採用していたため、一般送配電事業者は企業努力をおこなう必要はありませんでした。
しかしレベニューキャップ制度の導入により、コスト削減を実施すれば利益が増えることになります。そのため、一般送配電事業者のコスト見直しが促進されると考えられます。
レベニューキャップ制度は5年ごとに事業計画の審査が行われます。この際、一般送配電事業者がコスト削減に成功すれば、翌期のレベニューキャップはその分下がっていきます。
長い目で見れば、託送料金は安くなる可能性があるのです。
2024年4月から発電事業者への課金導入を開始
これまで電力系統の維持や拡充にかかる費用は、小売事業者(電気代を支払う法人・個人)が全て負担してきました。
しかし、2024年4月から「発電側課金制度」の導入が始まりました。この制度は発電事業者も費用の一部負担を求める制度です。

発電側課金制度では、託送料金を発電事業者10%、小売事業者90%の割合で負担することになります。それに伴って、需要家が電気料金の一部として支払っている託送料金が減額される見通しです。
しかしながら、発電側課金制度は発電側に新たな負担を求める制度のため、再エネ賦課金の上昇により国民負担が今後増加する懸念もあります。
料金プランを見直せば、月々の電気代が安くなる可能性がある
レベニューキャップ制度の開始により、託送料金が上がっています。月々の電気代の負担は更に増すことになりますが、料金プランを見直すことにより、電気代を安くできる可能性があります。
電気の契約種別には「一般的な料金プラン」と「市場連動型プラン」の2種類があります。それぞれの特徴を説明します。
まず、一般的な料金プランの内訳は以下のとおりです。

一般的な料金プランは、毎月定額の「基本料金」と、電気の使用量に応じて決まる「電力量料金単価・燃料費調整額・再エネ賦課金」の組み合わせで月々の電気代が決まります。東京電力や関西電力をはじめとした大手電力会社が提供するのがこの料金プランです。
このプランのメリットは、電気代の料金単価が24時間同じという点です。料金単価は9時でも21時でも変わらないため、電気代が計算しやすいです。
しかし、このプランには電気代が大幅に値上がりするリスクがあるため要注意です。
料金単価の値上げリスクがある
大手電力会社の電源の多くは火力燃料です。天然ガスと石炭による火力発電は、日本の現在の電源構成の7割を占めるため、燃料の値上がりはそのまま電気料金の値上げに直結します。
日本は、火力発電で使用する化石燃料(石炭・石油・天然ガス)の約9割を輸入に頼っています。そのため、2022年からはじまった急激な円安により、燃料の輸入価格が高騰しました。
当然、燃料の仕入れ値が上がれば売り値(料金単価)も上がります。実際に2022年以降、法人向け電気料金は値上げが続いています。
また、この先の燃料価格の見通しについても、天然ガスも石炭も2050年まで値上がりが続くことが予測されています。


EIA(米国エネルギー省エネルギー情報局)
高圧・特別高圧の燃料費調整額の上限は撤廃されている
電気代に含まれる「燃料費調整額」は、過去3ヶ月の燃料費をもとに毎月変動する仕組みです。電気代の料金単価は固定でも、燃料費の変動分はしっかり反映されます。
大手電力会社10社はいずれも高圧・特別高圧の燃料費調整額の上限を撤廃しています。そのため燃料費が高騰したときは、上昇分の負担が増えるリスクがある点は要注意です。
一般的な料金プランは料金単価が同一という点では安心感があります。しかし値上げしても電力会社の収益が改善されるとは限らず、電気代が今後も高騰する可能性は十分に考えられるのです。
そしてもう1つの料金プランが市場連動型プランです。料金の内訳は下図のようになっています。

市場連動型プランのメリットは「電気代の高騰リスクを削減できる」「電力会社の倒産・撤退リスクがゼロに近いこと」です。
このプランは、JEPX(日本卸取引所)の市場価格に基づいて電力量料金が決まります。市場価格は30分ごとに変動し、それに合わせて料金単価も変わります。市場価格が高くなると割高になりますが、安くなる場合には料金単価が下がります。

ちなみに、市場価格は「燃料費・電力の需給状況・天候」の3つの条件をもとに決まります。市場価格には燃料費が含まれているため、市場連動型プランの内訳に燃料費調整額がありません。
仮に燃料費の高騰が続く場合でも、日中の天候が良く、晴れて太陽光発電の導入量が増えて需給に余裕が出れば、市場価格は0.01円/kWhになることもあります。反対に、需給状況や天候が悪いと市場価格が50円/kWhになる場合もあります。
ちなみに0.01円/kWhの最安値をつける時間帯は年々増加しています。
特に、日照条件が良い九州エリアでは、市場価格が0.01円/kWhの時間が2023年は年1174時間となり、年間の総時間数(8,760時間)の約13%に達しています。

市場連動型プランは、午前~昼間の電気代が安くなる傾向にあるため、日中に電気をたくさん使用するオフィスや工場であれば、電気代が下がる可能性が高いといえます。
以下は、燃料調整費型プランと市場連動型プランの価格イメージ図は以下のとおりです。

「電気代を安くしたい」「電力会社との契約で悩みたくない」という企業は、市場連動型プランを検討してみてはいかがでしょうか。
一度、見積もりをとって比較することをおすすめします。



さらに、お客様へ電力会社から直接連絡が入ることはなく、煩わしいやり取りの手間も不要です。
